婚約破棄の正当事由

婚約成立後の義務に違反した場合

婚約男女

婚約が成立すると、お互いに誠意をもって交際し、婚姻届を提出して夫婦としての共同生活を始められるように努力をしなければならない義務が生じます。
どのような場合に婚約が成立するかについては→こちらの婚約の基礎知識で説明しています。

強制的に結婚はさせられない

婚姻届

そして、婚約が成立しているにも関わらず、それを正当な事由もなく破棄したとしても、強制的に義務(結婚すること)を履行させられることはありません。
この点に関しては、→こちらの婚約破棄と婚姻の強制を参考にされてください。

慰謝料などを請求される可能性はある

もっとも、お互いに誠意をもって交際し、婚姻届を提出して夫婦としての共同生活を始められるように努力をしなければならない義務に違反したことを理由(あるいは不法行為を理由)として、財産的損害の賠償や精神的損害の賠償(慰謝料)を請求される可能性があります。

財産的損害についての詳細は→こちらの婚約破棄の財産的損害を、精神的損害の詳細については→こちらの婚約破棄の慰謝料を参考にされてください。

ポイント

ここがポイント!


正当事由なく婚約を破棄すれば、慰謝料や財産的損害を請求される可能性がある。

判例

  • ※参考判例1(最高裁昭和38年12月20日)
  • 婚姻の予約は、将来において適法な婚姻をなすべきことを目的とする契約であって、これにより当事者をして婚姻を成立させることを強制し得ないが、当事者の一方が、正当の理由なく、契約に違反して婚姻をすることを拒絶した場合には、相手方に対し婚姻予約不履行による損害賠償の責に任ずべく、その損害賠償は精神的損害の賠償すなわち慰謝料の支払を含む。

裁判所

この判例で言っていることを簡単にまとめると、以下の3つです。

(1)婚約は「将来結婚しよう」という契約であって、その結婚は強制できませんよ。
(2)しかし、契約違反(婚約破棄)に正当な理由がないならば、損害賠償責任が生じますよ。
(3)そして、その損害賠償には精神的損害の賠償(慰謝料)も含みますよ。

正当事由とは?

疑問

そこで、婚約破棄の正当な理由(婚約破棄の正当事由)とは何を指すのでしょうか?

そもそも民法には婚約に関する規定がありません。

法律

つまり、これは正当事由に該当するとか、これは該当しないということは、法律には何も書いていないのです。

そこで、過去の裁判例などから、正当事由として認められたもの、認められなかったものをご説明します。

認められるもの

(1)不貞な行為があった場合

デート

婚約者以外の異性と性的な関係をもった場合のことです。
これが正当事由に該当することは感覚的にもお分かりいただけるかと思います。

当事務所がこれまでご相談を受けてきた中で、かなり多い婚約解消理由です。

(2)虐待、重大な侮辱をうけた場合

肉体的暴力(殴る、蹴るなど)は当然のことながら、肉体関係の強要や、暴言(程度によっては判断が難しいと思われます)も含まれます。

  • ※暴言具体例1
  • 婚約中に肉体関係を強要した男性が婚約者の女性に対し、「お前はこれが初めてではないだろう。だから結婚の話は白紙に戻そう。どうしても一緒になろうというのなら、俺が二号、三号をもっても文句を言うな」
  • ※暴言具体例2
  • 男性側の兄が女性側の兄に対し、「大体男というものは女に悪いことがあれば三日にあけず手をあげて殴らねばならぬ」

暴言

これらはかなり昔の裁判例にある暴言の具体例なので、男尊女卑の考え方が色濃く残っていた時代のものです。
もっとも、そのような時代であっても、このような発言があれば正当事由がありとされたわけです。

現在の感覚からすればかなり異常ですよね……

(3)挙式や婚姻届の提出や、結婚式の日時・方法、新婚旅行の計画などを合理的な理由もなく延期や変更された場合

(4)社会常識を相当程度に逸脱した言動

  • ※参考裁判例2(福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日)
  • 結婚式当日ないし新婚初夜において新郎として弁えるべき社会的常識を相当程度逸脱した原告(※新郎)の異様な言動の結果、新郎に対する新婦のそれまでの印象を一変し、かつ今後結婚生活を共にする決意を全く失わせるに至ったものであるから、このような場合婚約を破棄すべき正当な事由がある。

上記裁判例は、結婚式場、披露宴の席上において、着衣は締らず、一挙手一投足の態度は鈍重であり、花婿としても挨拶等の最小限度の礼儀についてもダメ、新婚旅行中は笑顔もみせず、労いの言葉かけず、旅行先の旅館では強引に肉体関係を遂げた後に勝手に就寝……

まことに勝手気ままで非常識な新郎の態度は、社会常識を相当程度に逸脱した言動と言えるでしょうね。

(5)相手が精神病(強度のヒステリーなど)になってしまった、交通事故や災害などにより身体障害者になってしまった場合

(6)相手が性的不能者となった場合

  • ※参考裁判例3(千葉地裁佐倉支部昭和28年1月23日)
  • 同棲後初めて男性が虚弱体質で心筋炎を患いしたがって性欲も欠如し夫婦生活を営むには相当の困難を感ずる状態であることを知った場合に、女性が本件婚約を履行しなかったことは正当の事由があったものと判断する。

(7)相手が失業、倒産などにより収入が極度に低下した場合

(8)相手が異常なほど性格が冷たい、金銭に極度に細かすぎる場合

  • ※参考裁判例4(東京地裁昭和37年7月5日)
  • 通常人以上に金銭的に細かく、その他性格的に相容れないものがあった場合でも、未だ婚約破棄の正当事由とはなり難い。

通常人以上に金銭的に細かいぐらい(一般的な用語でいう「ケチ」程度)では、正当事由としては認められないでしょう
もっとも、極度に、異常にというほど金銭的に細かい場合であれば正当事由に該当すると考えられています。

(9)相手に悪質な前科などがある、異性との深い関係が清算されていないことが判明し、将来の婚姻生活が不安になってきた場合

これらが婚約を破棄する正当事由と考えられます。
つまり、円満な結婚生活が脅かされるのではないかと考えられるときが、婚約破棄の正当な事由にあたります。

ポイント

ここがポイント!


将来の円満な婚姻生活が望めないような事情がある場合に、婚約破棄の正当事由があると言え、その典型が相手の不貞行為。

正当事由として認められないもの

(1)相性、方位が悪い

(2)年回りが悪い

  • ※参考裁判例5(仙台地裁昭和29年10月27日)
  • 俗信によれば年まわりが悪い場合、右俗信を信じないものに対する関係においてまで年まわりが悪いことをもって、婚姻予約を破棄する正当の理由とすることはできない。

(3)家風に合わない

(4)親兄弟が許さない

(5)性格的に合わない

婚約破棄・解消の理由の中でもっとも多いと思われる理由が、この性格的に合わない(性格の不一致)です。
婚約してはみたけれど、結婚が近づいてくると、相手の嫌な部分が見えてくることも多いものです。
しかし、「この相手とは性格が合わない」と感じて婚約を破棄・解消すると、それは原則として正当事由には該当しないことになります。

  • ※参考裁判例4(東京地裁昭和37年7月5日)
  • 通常人以上に金銭的に細かく、その他性格的に相容れないものがあった場合でも、未だ婚約破棄の正当事由とはなり難い。
ポイント

ここがポイント!


性格の不一致や親の反対は婚約破棄の正当事由に該当しない。

破棄した側が損害賠償責任を負う?

破棄させようと仕向ける

慰謝料や財産的損を支払うのは、先に婚約破棄を言い出した方であると思われている方も多いと思います。
そのため、正当事由なく婚約を破棄したいと考えている人は、相手方から破棄させようと仕向けているようなご相談をお受けすることがあります。
「どうも彼の態度を見ていると、私から婚約を破棄させようとしているのですよね」というご相談です。

慰謝料支払いを回避しようとする人の思考回路

このように婚約破棄の意思表示をさせようと仕向ける人の思考回路は以下のようなものです。

  • ①他に好きな女性(男性)がいるから婚約破棄をしたい
  • ②でも、他に好きな人がいるという理由は正当事由に該当しない
  • ③このまま破棄すれば慰謝料は払わなければいけない……
  • ④慰謝料を払いたくないなあ……
  • ⑤そうだ!冷たくするなどして相手から破棄させよう!
  • ⑥そうすれば慰謝料を払うどころか請求できるかも♪

疑問

こんなせこい考えは通用するのでしょうか?
先に婚約破棄の意思表示をした側が、財産的及び精神的な損害(慰謝料)を賠償しなければならないのでしょうか?

そんなことはありませんのでご安心を。

破棄した側に正当事由がない

例えば、花子さんと婚約していながら不貞行為(浮気)をした太郎さんのケースでは、太郎さんから婚約破棄を申し出れば、当然太郎さんが慰謝料などを支払うことになります。
なぜなら、太郎さんには、婚約を破棄・解消することに正当事由がないからです。

破棄した側に正当事由がある

逆に花子さんが「婚約中にフラフラ浮気するような男とは結婚できない!」と婚約破棄を申し出たとしても、慰謝料などを支払うのは太郎さんです。
なぜなら、花子さんには婚約を破棄・解消することに正当事由があるからです。

原因を作った側に責任がある

慰謝料

このように損害賠償責任は、どちらから婚約を破棄したか(どちらが意思表示を先にしたか)によって決まるのではないのです。

あくまでも、婚約が結婚に至らなかった原因(上記のケースでは不貞行為)を作った人が誰であるかによって決まるのです。

ポイント

ここがポイント!


どちらが婚約解消を申し出たかではなく、どちらの責任で婚約が解消されることになったかによって、損害賠償責任が生じるかが決まる。

どのような損害をどれぐらい請求できる?

相手方が正当事由なく婚約を解消した場合、あるいは自身に正当事由があって婚約を解消した場合に、損害賠償請求ができることになります。
では、どのような項目のものをどれぐらい請求できるのでしょうか?
それについては→次のページ(婚約破棄の損害賠償)で説明しています。

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